介護の虐待は幅広い

ニュースで介護施設での虐待が報道されるようになってきました。

虐待と言われると一般の方は、『しっかり仕事をしないとダメじゃないか』と思われるでしょうが、実のところ、現場の介護スタッフにしてみれば、虐待に相当するのかどうかは難しい部分があるものです。

もちろん、暴力を振るうというのは完全にアウトです。ここで言っているのはそういう分かりやすい行為を言っているのではなく、業務上やむを得ない行為を虐待と見なされる場合についての話です。

例えば、ナースコールを外すなどの行為。普通に考えれば、何か合った際に呼ぶのがナースコールですので、ナースコールを外すというのはとんでもない行為です。

しかし、なかには夜間に何度も無意味にナースコールを押す利用者もいるもので、分からなくもない行為です。その場合、ナースコールを外さなければ、他の利用者へのケアができなくなります。もちろん、大きな声でこれが正しいとは言ってません。万に一つのナースコールもありますからね。しかし、夜間は常駐しているスタッフは限られています。限られた中で、多くの利用者の世話をしなければなりません。ナースコールを何度も押す利用者の状況を確認し判断した上で、その場でのギリギリの選択というものです。ここは、現場でなければ分からないかもしれませんが。

介護の世界において、「何が虐待か?」というのは、意外にも難しい問題だと思います。

【拘束行為は介護理念によって幅広い】
虐待の一つに利用者の動きを拘束して動かないようにするというものがあります。病院などで点滴などを直ぐに外す患者に対しては割と普通に行われています。

拘束というと不穏な雰囲気がしますが、医療の世界でも、動かれるとかえって医療行為に支障がでる場合は、拘束が行われているのです。

それと同じようなことが介護の業務でもあります。

(1)ベッドに柵をする
高齢者になってくるとベッドだと直ぐに落ちるため、柵をします。高齢者は体も骨も強くないですから、ベッドから落ちた際に怪我をすることが多くなります。また、一旦ベッドから落ちると自分で戻ることができない人も居ます。そのため、落下防止のため、ベッドに柵をするのです。
ただし、その柵は頭か足かの片方でないといけないというルールもあります。両方やると完全にベッドから降りられなくなるためです。必要なときに開閉して出入りができるような柵であれば良いのですが、導入には至っていないようです。費用の関係でしょうかね。

(2)椅子への拘束
認知症などで徘徊がある利用者は一層気を使います。対策の1つとして、椅子などを使って動けなくすることがあります。これも拘束の1つですね。椅子から転倒する可能性がないわけではありませんし、その場合は怪我する場合もあります。ただ、徘徊による事故や事件の影響の大きさを考えると、徘徊の行為が出たら座ってもらうように説得するしかありません。

こうした拘束は、傍から見ると虐待と感じる場合もありますから、ご家族への説明は十分行い、納得してもうように努力することは言うまでもありません。

【介護理念は人によって違う】
介護の仕事についての考え、例えばどこまでが介護かどこからが虐待かという考え方は人によって違ってくる場合もあります。と言いますか、間違いなく人によって変わります。

だから、誰が正解で誰が間違いかということを判断するのは難しいものです。明らかな犯罪行為であればアウトではあるものの、そこまで至らないものについては、「この方が利用者のため」という考え方と「それはやり過ぎ」という考えが錯綜するのが現場でもあります。

例えば大学のアンケートで、「長時間トイレに座らせるのは虐待に当たりますがどう思いますか?」という文を見た事があります。トイレに拘束する事が虐待だと言いたいのでしょうが、長時間座らせれば排泄ができるのに、排泄の機会を奪いおむつ対応にしてしまう方が虐待だと個人的には感じました。

何も知らない人から見ると、やっても意味がないものに長時間負担を強いるのは虐待と思えるかもしれません。しかしそれが無意味かどうかは、誰にも分かりません。「長い目で見たら効果があるのかもしれないけど、今この人に無意味でしょ」「もっと楽をさせてあげたい」という気持ちと、「今は辛いかもしれないが頑張って欲しい」「長い目で見たらQOLを上げることが出来る」という気持ちは、相容れないものだからです。

そのように介護理念によって虐待の定義も違ってくるのです。

以前読んだ漫画で、Dr.コトー診療所というものがあります。その中で、手足が自由に動かない年老いた母に対し、その子供が井戸に水を汲みに行かせるという場面がありました。看護師の星野彩佳は「それは虐待だ」と言っていたのに対し、医師の五島健助はリハビリの一種だとみなしていました。最後は、見事井戸から水を汲むことが出来たわけですが、最後の最後まで虐待とリハビリと意見が食い違っていましたね。

このリハビリの場面と同じようなことが介護の現場でも起こりうるのです。

最後に、もちろん虐待は介護施設であってはならない事です。
閉じられた範囲で動いていると、当初はリハビリのはずがいつの間にか虐待になってしまっている、ということがありえます。それを防ぐため、常に第三者の視点から見直すことを忘れないこと。言うまでもなく、利用者の気持ちになって考える事が重要になってきます。

それと同時に、介護の仕事に就く人、一人ひとりのモラルを育てなければいけません。